2021年9月26日(日)にDysferlinopathy(三好型、肢体型2B、前脛骨筋ミオパチー)講演会をオンラインにて開催しました。
今回の講演会は、Dysferlinopathyを研究してくださっているお二人の先生をお招きし、最新の研究などについてご講演をいただきました。

また、大変幸いなことに櫻井先生と共に研究してくださっている「T-CiRA櫻井プロジェクト」の5名の研究員の方々も参加してくださいました。
PADM側の参加者は、三好型および肢体型2Bの患者会員さん、賛助会員さんなど10名とPADM運営員5人(うち1人は三好型会員)です。

  ご講演してくださった先生

国立病院機構仙台西多賀病院 高橋 俊明 先生
京都大学iPS細胞研究所・臨床応用研究部門 櫻井英俊 先生


  参加してくださったT-CiRA櫻井プロジェクトの研究員の方々

稲塚 様
及川 様
岡 様
佐々 様
犬飼 様


当日は、冒頭の織田代表からの挨拶、オンラインでは恒例となった集合スクリーンショットなどから始まり以下のスケジュールで進行していきました。

  当日の主なスケジュール

14時00分    先生方の紹介・代表あいさつ・写真撮影
14時10分    独立行政法人 国立病院機構仙台西多賀病院 高橋俊明先生 ご講演
14時50分    〜 休憩(10分間) 〜
15時00分    京都大学iPS細胞研究所・臨床応用研究部門 櫻井英俊先生 ご講演
15時40分    〜 休憩(10分間)  〜
15時50分    質疑応答
16時30分    閉会のあいさつ

  高橋先生のご講演

高橋先生からは「ジスフェルリノパチーの治療法開発」という題目にてご講演をしていただきました。主な内容は下記のとおりです。

・三好型遠位型筋ジストロフィーについて
・ジスフェルリン(Dysferlin)遺伝子について
・ジスフェルリノパチー(Dysferlinopathy)の変異タイプについて
・特異な変異「p.W999C」について
・ジスフェルリン異常症の治療開発について
・ジスフェルリンの細胞膜修復機能について
・AMPK活性化剤による細胞膜修復機能の改善について

高橋先生の話を聞いてDysferlinopathy病態や原因遺伝子といった病気の概要について改めて認識することができました。

さらに「進行が遅くなる変異を持っている方がいる」「病気の改善が期待できる有効な物質が見つかり始めている」など喜ばしい話を聞くことができ、また「薬になるまでの課題はまだまだたくさん」といった今後の課題についてのお話も聞くことができました。

  櫻井先生のご講演

櫻井先生には「iPS細胞を活用したDysferlinopathyに対する治療研究について」という題目にてご講演をしていただきました。

・iPS細胞について
・京都大学iPS細胞研究所(CiRA⦅サイラ⦆)について
・Dysferlinopathy患者由来のiPS細胞と細胞を使った研究について
・CiRAと武田薬品工業との共同研究プロジェクト(T-CiRA)について
・T-CiRA櫻井プロジェクトでのDysferlinopathyに対する薬剤開発戦略について
・筋膜修復に有効な物質「ノコダゾール」の発見と毒性について
・今後の膜修復促進剤の研究について

ニュースなどで一度は聞いたことがある「iPS細胞」。この細胞の概要と万能性などを、専門家である櫻井先生から直接お話を聞くことができたのはとても貴重な機会です。

iPS細胞で自分たちの病気の筋細胞を再現できていることに改めて驚き、筋膜修復に有効な物質が見つかっていることに喜びを感じられたご講演でした。

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  質疑応答

患者会員から高橋先生、櫻井先生への質問タイムです。あらかじめ患者会員から先生方への質問を募集していましたので、そちらを中心にご回答をいただきました。

主な質問と回答を抜粋して記載します。


【高橋先生のご回答】

Q1.  既存薬が自分たちの病気に効く可能性は?
A.可能性はあると思っていて、だからこそ既存薬での研究を行っている。実際、効きそうな既存薬は出てきている。マウスまでの実験では効果がある程度確認できた。ただ、魚では効いていたが、マウスでは効きが弱かった。さらに、大きな動物では効果が薄くなるのではと心配している。また、人間にはどのくらいの量が必要なのかがわからず、薬の元々の効果も考えると難しい面もある。 そして、今後の課題としては治験をどうするかがある。GNEミオパチーの時に苦労した経験があり、次回はもっと計画的に実行する必要があると考えている。
Q2.  治療薬、治療法ができるまで患者自身ができることは
A.外来時みなさんに話しているが、治療法ができるまで身体の状態をしっかりと保って欲しい。薬ができた時に身体が悪い状態で始めるより、良い状態で始めたほうが絶対によい。筋肉の状態だけでなく他の病気にかからないことも重要。
Q3.  治験とか薬の開発に、患者や親子ができる事はあるか?
A.外来をやっている身としては「まだ元気だから」「薬がないから」といって受診される方がいらっしゃる。たまに来て欲しい。あまりにも受診されていないと、病院のシステム上、連絡が取れなくなってしまう。もし薬など良い情報が出てきても伝えられなくなってしまう。ちなみに、患者さんによって異なるが定期的な受診の頻度は年に1回程度。
Q4.  リハビリって本当に必要?効果はある?
A.ちゃんとやれば効果はある。理学療法士さん、作業療法士さんが入られて評価をしながら必要な回数を受けられるのが理想。地域の医療環境などによって必要な回数を受けられない方は、リハビリ時に自分でできるリハビリを理学療法士さん、作業療法士さんから聞いて実施するのもあり。
Q5.  気温が低くなる季節になると、「身体が夜寝ていて死体のように冷たくなる」とのこと、筋肉量にも関係があるのかもしれないが、何か改善の方法はある?
A.難しい…。「寒い」とおっしゃる患者さんは多いと感じる。筋肉量が少なくなり血流が減るためではないかと考えている。
→患者会として患者同士で情報交換できる場を設けていく。
Q6.  HALでのリハビリと、従来のリハビリとの違いや効果の違いはある?
A.HALを開発した先生に話を伺ったところ、今までのリハビリとは根本的に違うものだとおっしゃられていた。「HALは筋肉に作用させているのではなく、脳に作用させている」とのこと。私なりの解釈では、筋力が弱くなると普通ではない歩き方になる。そうなると脳が普通ではない歩き方を毎日練習することになる。それをHALで矯正する。
HALは3週間かけて1日おきに9回実施する。実施したあとは、どの患者さんも歩行する時間が短くなる。つまり効果はしっかり出ている。ただ、少しよくなったため無理したがためにケガをしてしまった人もいる。

【櫻井先生のご回答】

Q1.  既存薬が自分たちの病気に効く可能性は?
A.高橋先生と同じで可能性はあると思っている。我々は抗がん剤のノコダゾールという物質を見つけた。ただ、抗がん剤を単発的に使うのと、継続的に使うのとでは意味合いが違う。既存薬の元々の主作用が何だったのかが重要。我々の戦略としては、既存薬も試すし、新しい物質も試すしという方向で行なっていく。
Q2.  治療薬、治療法ができるまで患者自身ができることは?
A.高橋先生がおっしゃられたことがやはりとても重要。患者さんからメールをいただいた時には「薬の開発は私ががんばるので、患者さん自身はお身体の状態を保つように」とお伝えしている。もう一点、もし可能であればJain Foundationの自然歴研究に参加していただきたい。筋力がどのくらいの期間でどのくらい落ちていくのかのデータは、薬の効果を実証するのに重要となるため。
Q3.  治験とか薬の開発に、患者や親子ができる事はあるか?
A.自然歴研究の参加以外では、今回のような講演会などで病気に対する正しい知識を取り入れて欲しい。難病の方に対し言葉巧みに近寄りお金儲けをする人もいるため。
Q4.  リハビリって本当に必要?効果はある?
A.こちらについては、専門家ではないので高橋先生がおっしゃることがそのままだと思う。拘縮すると動かなくなるため拘縮予防が大事。
Q5.  気温が低くなる季節になると、「身体が夜寝ていて死体のように冷たくなる」とのこと、筋肉量にも関係があるのかもしれないが、何か改善の方法はある?
A.患者さん同士で実際に行っている改善方法などを交換してもらうとよいかも。
→患者会として患者同士で情報交換できる場を設けていく。
Q6.  海外も含めて研究は今どの状態にあるか?
A.アメリカでは遺伝子治療の治験が行われている。ただ、Dysferlinの遺伝子は遺伝情報がたくさんあるため、今ある遺伝子治療では乗せきれないため2種類に分けて「中でうまくくっついてくれたらDysferlinタンパクができる」くらいの確率低めの治療。
他にもステロイドなどの治験もあったが効果は出ていないよう。現段階で、Dysferlinopathyに有効な治験などは走っていない。
Jain Foundationは先の遺伝子治療をサポートしつつ、自然歴研究を進めながら来るべき新しい治療法の確立に備えている。
Q7.  もし治療薬が開発されて治験を始めるとしたら、京都大学に入院しての形になるか?その場合、患者の年齢など限定される可能性はあるか?
A.私は研究の立場なので答えにくいところだが、やるとしてもNCNPのプロフェッショナルな先生方のご協力なしではできない。NCNPには患者さんがたくさん登録されているはずで、京都大学のみに限定した形にはならないと思う。拠点としてはNCNPになるはず。年齢や症状などはその治療薬によって異なる。


上記以外にもいくつかの質問やご回答がございました。
講演会当日の動画は会員専用のページにアップロードする予定ですので、そちらも合わせてご覧ください。

Dysferlinopathyの治療薬ができるまでもう少し時間を要しますが、当患者会が発足した当時は治療薬の「ち」の字もありませんでした。また、筆者が診断を受けたときはそれよりもさらに前の段階、実験用の動物をどう再現させるかという状態でした。

その当時に比べたら今回の講演会で聞けた話は、治療薬に関する研究が着実に進んでいる!と実感できたとともに、完治への希望をいただけた講演会でした。研究してくださっている先生、研究員の方々には感謝の念に堪えません。

また、今回の講演会は2時間30分と長丁場でありましたが、それでも最後までお付き合いしてくださった先生と研究員の方々にはやはりただただ感謝です。本当にありがとうございました。

事務局では今後も、先生方をお招きする講演会や会員同士の交流会などを実施していきたいと考えております。

引き続きみなさまのご協力をお願いいたします。


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