1. 全体版 25MB PDF
  2. 分割版:Chapter 1 遠位型ミオパチーについて学ぼう 14MB PDF 表紙~p.78
  3. 分割版:Chapter 2 患者と仲間たち 10MB PDF p.79~116
  4. 分割版:Chapter 3 PADMの “これまで” と“これから” 5MB PDF p.117~裏表紙

PADM設立10周年を記念して『遠位型ミオパチー ガイドブック』を発行しました。

各分野の第一人者による疾患等に関する解説、

患者のこれまでの半生を記した手記、PADMのこれまでとこれから等を掲載しています。

初めてこの病気を知ってくださった方から、各分野の専門家まで、

幅広い皆様に役立てていただけるものを目指しました。

ご高覧いただき、皆様の中に何か残るものがあれば幸いです。

※一部のハイパーリンクは、動作しない場合があります。

※これまで掲載していた国立精神・神経医療研究センター病院 名誉院長 埜中 征哉先生による

 遠位型ミオパチーの解説(2008年4月掲載)も、このページの下部に掲載しています。

目次

003 ご挨拶

NPO法人PADM 代表 織田 友理子

004 『遠位型ミオパチーガイドブック』発刊に寄せて

国立精神・神経医療研究センター 理事長 水澤 英洋


Chapter 1 遠位型ミオパチーについて学ぼう


01 遠位型ミオパチーってどんな病気? 010 

010  遠位型ミオパチーの概要

国立精神・神経医療研究センター病院 名誉院長 埜中 征哉

011  縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーとは

国立精神・神経医療研究センター神経研究所 疾病研究第一部 部長 西野 一三
研究生 吉岡 和香子

014  三好型遠位型筋ジストロフィーとは

国立病院機構仙台西多賀病院 内科系診療部長 髙橋 俊明

018  眼咽頭遠位型ミオパチーとは

国立精神・神経医療研究センター病院 名誉院長 埜中 征哉


02 治療法ができるまで  020

020  患者が薬を手にするまで~基礎研究・治験・承認審査

国立精神・神経医療研究センター
トランスレーショナル・メディカルセンター 臨床研究支援室長 中村 治雅

024  縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー シアル酸補充療法の開発

ノーベルファーマ株式会社 代表取締役社長 塩村 仁

026  三好型遠位型筋ジストロフィー リードスルー薬の開発

PTCセラピューティクス・ジャパン合同会社 薬事本部長 柳 孝明

027  遺伝子治療と遠位型ミオパチーへの応用について

日本医科大学 大学院医学系研究科 社会連携講座 細胞遺伝子治療学 助教 喜納 裕美
日本医科大学 生化学・分子生物学(分子遺伝学) 大学院教授 岡田 尚巳
国立精神・神経医療研究センター神経研究所 所長 武田 伸一

029  遺伝について

国立精神・神経医療研究センター神経研究所 疾病研究第一部 部長 西野 一三

030  iPS細胞技術を活用した遠位型ミオパチーに対する治療法開発

京都大学iPS細胞研究所 臨床応用研究部門 准教授 櫻井 英俊

032  遠位型ミオパチーなど神経・筋8疾患に対する
サイボーグ ロボットHAL による保険診療~サイバニクス治療

国立病院機構新潟病院 院長 中島 孝


03 患者情報を集めよう  035

035  神経・筋疾患患者情報登録 Remudy ~ナショナルレジストリー設立の試み

国立精神・神経医療研究センター トランスレーショナル・メディカルセンター
臨床研究支援部 早期・探索的臨床試験室長/同病院 クラスター病棟 医長 木村 円
同病院 神経内科 医長 森 まどか

038  患者・家族の声を、医療や生活の場に活かすための挑戦─ 意義編

特定非営利活動法人 ASrid 理事長 西村 由希子

039  患者・家族の声を、医療や生活の場に活かすための挑戦─調査の結果編

特定非営利活動法人 ASrid 研究員 江本 駿


04  毎日の暮らしのなかで  042

042 患者さんに気をつけてほしいこと

国立精神・神経医療研究センター病院 神経内科 医長 森 まどか

043 栄養と食事について

国立病院機構八雲病院 診療部 部長 石川 悠加
同病院 リハビリテーション室 作業療法士 田中 栄一

045 ストレッチで日常生活動作を守ろう

国立精神・神経医療研究センター病院 身体リハビリテーション部 理学療法士 矢島 寛之
理学療法士 勝田 若菜

049 福祉機器の活用について

国立精神・神経医療研究センター病院 身体リハビリテーション部 士長 作業療法士 粟沢 広之
理学療法士 矢島 寛之

062 上肢動作支援機器~ロボットアームとアームサポート

テクノツール株式会社 取締役 島田 真太郎

064 QOLを支えるICT機器

特定非営利活動法人 ICT救助隊 理事長 今井 啓二

066 医療・福祉制度~たいせつな生活と人生を支えるために~

国立精神・神経医療研究センター病院 医療連携福祉相談室 齋藤 睦美
昇 多加代
漆畑 眞人

067 障害者・難病患者の就労について

LITALICOワークス ヒューマンリソースグループ マネージャー 吉村 紘樹
田野 瑞穂

071 遠位型ミオパチー合併妊娠の出産・遺伝・子育てについて

東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科
医歯学系専攻 器官システム制御学講座 生殖機能協関学 教授 宮坂 尚幸


質問コーナー   074


Chapter 2 患者と仲間たち


私が歩んできた道   080

080  素晴らしい運と出会いに恵まれて

九州・沖縄地区サブリーダー 本田 光雅

082  笑顔で暮らしていくために

会員 田靡 弥生

084  PADMと私

九州・沖縄地区リーダー 中園 靖子

086  なんとかなるさ!

会員 M. K.

088  勇気を持って私を楽しむ

関東地区サブリーダー 笹川 瑞穂

090  人生の半分を ミオパチーと生きて

北海道・東北地区サブリーダー 加藤 美代子

092  憧れのアメリカと大嫌いだった日本

事務局 海外担当 菅井 義雄

094  遠位型ミオパチーとの20年

会員 遠藤 信也

096  可能な限り前向きに~私の半生といま~

会員 伊藤 暢彦

098  人生の楽しみを探す暮らし

中部・北陸地区リーダー 野原 直樹

100  中途難病障害者として生きる

会員 小林 正直

102  いまを生きろ、今日を楽しめ

理事・関西地区リーダー 橋長 里江


仲間の輪   104

104  Suite Night Classic 難病の友のためのチャリティーコンサート

『Suite Night Classic』主催 林 未来彦
会員 岡山 祐実
会員 伊藤 暢彦

106  Letter ~遠位型ミオパチーという病を抱えた青年とその飼い猫の物語~

『Kitten Dance Planet』副代表 西口 綾子
事務局長 林 雄二郎
会員 宮崎 浩彰

地区紹介  108

これ、使ってます!  110


Chapter 3 PADMの “これまで” と“これから”

PADMの“これまで”と“これから”  118

資料編  123

123  署名活動  [コラム]署名活動の思い出 会員 浅川 ひろ子
124  街頭署名活動一覧
125  意見書提出活動
126  メディア掲載一覧
128  役員変遷
130  編集後記
131  活動資金のお願い/PADM役員名簿

(2018.9)


以下は、2008年4月より掲載している国立精神・神経医療研究センター病院 名誉院長 埜中 征哉先生による遠位型ミオパチーの解説です。

遠位型ミオパチー 縁取り空胞型遠位型ミオパチー 三好型遠位型筋ジストロフィー 眼咽頭遠位型ミオパチー

ミオパチーとは?

Myo-(筋肉)と-pathy(病、苦痛)からなる単語であり、一般的には筋肉の疾患の総称を指します。

筋疾患(筋肉の病気)には、筋肉そのものに原因があり、 筋力が低下する病気(筋原性疾患:ミオパチー)と筋肉を支配する神経が侵される病気(神経原性疾 患)の2種類があります。筋原性疾患(ミオパチー)の代表的な病気に、筋ジストロフィー、多発筋炎などがあります。

神経原性疾患では脊髄性筋萎縮症、筋萎 縮性側索硬化症が代表的な病気です。

遠位型ミオパチーとは?

筋原性疾患の多くは、駆幹(胸・腰のあたり)や上腕・大腿部など躯幹に近い筋(近位筋)が侵されます。 しかし、筋疾患の中には手指や下腿など手足の先から筋力が低下していく病気があります。

それが「遠位型ミオパチー」です。

実態が把握できていない現状

日本できちんとした遺伝子検査実施が普及されていないことや、この病気をよく知り、 診断できる医師も限られる現状から、実態は把握できていません。

様々な統計から、現時点では本邦には300〜400人(約317,300人に一人)の患者さんがおられると推定されています。

日本総人口数126920000人
遠位型ミオパチー患者数300~400人(0.0003%)

遺伝子診断を行っている施設では、診断を確実にした例が増えています。

本邦には1,000人以上おられるのではないかと推定している研究者もいます。 多くの場合、徐々に進行し、日常生活の介助が必要となります。

「遠位型ミオパチー」には、「縁取り空胞型」「三好型」「眼咽頭遠位型」の三つの代表的な型がありますが、 眼咽頭遠位型はきわめてまれな病気です。

縁取り 空胞型と三好型はほぼ同じ程度の頻度で、最近では三好型の方が多く見つかっています。

縁取り空胞型はユダヤ人に多くみられ、人種差があります。

また、日本人にはなく、外国だけに存在するような遠位型ミオパチーもいくつか存在します。

原因

常染色体劣性遺伝で、シアル酸という糖タンパクの代謝に関係する酵素の遺伝子(GNE遺伝子)に変異があります。

シアル酸は細胞膜にあって、細胞膜を強固にする働きがあるといわれています。

なぜこの遺伝子に異常があると縁取り空胞が出来て足から筋肉の力が弱くなるのか、今のところ解明されていません。

縁取り空胞

筋線維の中に、空胞があって、その空胞は細かい顆粒状の物質で縁取られています(図参照)。

筋細胞の中で、局所的な筋原線維の変性があり、それをリソソームというのが食べて消化します。

変性した筋原線維、それを食べるリソソーム、消化・処理された物質の残骸、それらが空胞の周りの顆粒状物質として認められるのです。
また電子顕微鏡で筋肉を調べると、筋細胞核の中に細い線状の固まり(封入体)があります。
ですから、外国では縁取り空胞型のことを封入体ミオパチー(inclusion body myopathy: IBM)と呼んでいます。

01
縁取り空胞 細くなった筋細胞(横断面)に空胞があり、赤紫色の物質で縁取られている。

実態が把握できていない現状

日本できちんとした遺伝子検査実施が普及されていないことや、この病気をよく知り、
診断できる医師も限られる現状から、実態は把握できていません。

様々な統計から、現時点では本邦には300〜400人(約317,300人に一人)の患者さんがおられると推定されています。

症状

大半の方では20~30歳代に症状が出現します。

前脛骨筋(すねのあたり)が最初に侵され、つま先が持ち上がらずに歩行時につまずく、スリッパが脱げやす いなどの症状が見られます。

大腿の後ろの方は侵されますが、前の方(大腿四頭筋)は侵されにくいのが特徴といわれています。
ですから、偉そうな歩き方をし ているようにみえます。

また病気の初めから、首の筋肉が弱く、寝た位置で頭が持ち上がらないことが多いです。

病気が進むと、下腿(膝下)全体の筋肉が侵され、歩行が困難となり、平均10~15年くらいの経過で車椅子生活となります。

上肢は手指から進行し、握力が 低下します。心筋や呼吸筋は侵されにくいので、生命的予後はよいとされています。

血液検査などでは特別な異常がなく、筋肉が壊れる指標とされているクレア チンキナーゼ(CKとかCPKと呼ばれています)は
正常かやや高め(高くても正常の10倍以下)です。

02
縁取り空胞型遠位型ミオパチー
病気の初期には下腿の前外側にある前頸骨筋が侵されるので、足は細くなる(左)。
筋肉のCT(右)をみると、前頸骨筋は強く侵されていて、脂肪組織で置き換わっている(黒く見える)。

治療について

シアル酸がうまくできないことが原因なので、シアル酸を補充すれば治療できるかもしれません。

実際、患者の培養細胞にシアル酸を与えるとしっかり取り込まれ、
細胞の機能が回復することが実験で示されています。

最近、DMRVモデルマウスが完成し、現在そのマウスでシアル酸が有効かどうかが研究が続けられています。

原因

常染色体劣性遺伝で、ジスフェルリンという蛋白をコードする遺伝子に変異 があります。そのために筋細胞の表面にあるジスフェルリン蛋白が欠損しています。

生検した筋肉をジスフェルリンの抗体で染めてみると筋細胞膜に蛋白がないことが分かり、診断できます。 また、遺伝子検査でも診断が可能です。ただ、遺伝子が大きいので、検査には時間がかかります。

筋組織は筋線維の壊死、再生、脂肪組織、結合織の増生があり、筋ジストロフィーなので血清クレアチンキナーゼ(CK)値も非常な高値を呈します。

症状は、20~30歳代で現れ、下腿(膝下)後部のヒラメ筋や腓腹筋(ふくらはぎ)から侵されるので、 歩行の異常で気付かれます。

遠位型筋ジストロフィー(三好型)

つま先立ちが出来ないのが特徴で、特有の立ち上がり方をします。

進行は比較的緩やかですが、速いものでは発症から10年くらいで車椅子生活となります。 心筋や呼吸筋は侵されにくいので、生命的予後は良いとされています。

筋生検をすると、筋細胞が壊れ、それに続く再生所見がみられます。これは筋ジストロフィーに共通する所見です。

ふくらはぎの筋萎縮が著明(左)。下腿筋CT(右)では下腿の後ろ側(ヒラメ筋や腓腹筋)は筋肉が脂肪組織で置き換わっている(黒く見える)。前頸骨筋など足の前の方の筋肉(白い色をしている)はよく残っている。

つま先立ちが出来ないのが特徴で、特有の立ち上がり方をします。

進行は比較的緩やかですが、速いものでは発症から10年くらいで車椅子生活となります。 心筋や呼吸筋は侵されにくいので、生命的予後は良いとされています。

筋生検をすると、筋細胞が壊れ、それに続く再生所見がみられます。これは筋ジストロフィーに共通する所見です。

治療について

現在のところ、病気を完治させるような薬はありません。

遺伝子の異常がわかっていますので、遺伝子治療の対象疾患です。また、幹細胞を使用しての再生治療にも期待がもてます。

原因

常染色体優性遺伝をとりますので、家族の中に同じような症状の方がいることが多いです。

まれな病気で、まだ日本では数家系が確認されているだけです。

50歳以降に眼瞼下垂(まぶたが下がる)や嚥下困難(ものが飲み込みにくい)で発症します。 まぶたが下がっているので、ものが見えにくくなります。咽頭筋 が弱いので、言葉がはっきりしない、ものが飲み込みにくい、などの症状で気づかれることもあります。

しばらくすると、下肢の筋力低下を伴うようになりま す。

まれには、縁取り空胞型遠位型ミオパチーと同じような歩行障害(前頸骨筋が好んで侵される)が先行することもあります。 進行は遅く、心筋や呼吸筋などは侵されませんので天寿を全うします。眼瞼下垂が強い人には、手術も行われます。

筋生検では、縁取り空胞がみられるのが特徴的で、診断的な所見です。遺伝子の異常はまだ分かっていません。

著 : 国立精神・神経医療研究センター病院 名誉院長 埜中 征哉先生(2008.4)